先日ニコニコ生放送でフランク・ザッパ○○ベスト5という特集を放送したところ、「ランキングをツイッターかなんかに載せて欲しい」というコメントがありました。ツイッターでは文字制限で何かと不便なので、ブログのほうで紹介したいと思います。
以下に掲載するのは一ザッパファンである私の主観的なランキングですので、不満等ございましたらブログのコメントやツイッターのほうにどしどしお寄せください。
「フランク・ザッパのギターソロ・ベスト5」
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ザッパのギターフレーズは特殊だ |
ザッパが弾くギターソロは他のギタリストのそれに比べると非常に癖がある。理由としては、ギターソロに対するアプローチが一般のギタリストとは異なるからではないだろうか。一般的にギターソロというのは、テクニックを披露したり、スタジオ版とほぼ同じようなプレイをすることが多い。しかし、ザッパは同じフレーズを用いたギターソロをめったに弾くことがない。ザッパ自身もギターソロは作曲の場であると考えているようで、「黙ってギター弾いてくれ」のような全編ギターソロのみで構成された作品を発表したことからも彼のギターソロに対する独特なアプローチが伺える。彼のフレージングはペンタトニックスケールを基調としながらも、手癖フレーズを用いたりやスケールからちょっと外れるような音選びをすることによって、特殊なものになっている。さらに、重要な点として、ザッパがいわゆるテクニカルなギタリスト(バカテク系ギタリストとも言えるか)ではないということが挙げられる。この言い方はまるでザッパが上手くないギタリストと言っているかのように聞こえてしまうかもしれないが、彼のプレイには開放弦が鳴ってしまったり、微妙なミュートミスやピッキングミスといったものが結構あるのだ。むしろこういったミスはギタリストの独特な味のようなものを加えているのかもしれない。こうしたザッパのギタリストとしての傾向は、1971年の大怪我の後に制作された「ワカ・ジャワカ」や「グランド・ワズー」の時期から確認出来るのではないかと個人的には考える。それ以前の69年の「ホットラッツ」におけるギターソロを聴くと、ペンタトニックを駆使した、ブルース寄りのまともなギタープレイを披露している(3曲目の"Mr. Green Genes"あたりは本当にまともである)。言い方を変えれば、丁寧にプレイしている印象がある。しかし、72年の「ワカ・ジャワカ」の表題曲のギターソロを聴くと、フレージングに微妙な変化が生まれたように感じる。単にペンタトニックスケールの上で展開されていたソロに、何か雑味やアクが加わった感じがするのだ。その雑味やアクというものは73年の「オーバーナイト・センセーション」におけるギタープレイで確立されている。"I'm The Slime"や"Fifty-Fifty"のワウペダルを駆使した猥雑なギターソロは、怪我をする以前、つまりフロアンドエディ期のザッパのプレイからは相当変化している。完全なる私の憶測ではあるが、全身骨折の怪我でしばらくギターが弾けなかったことがギタリストとしてのプレイスタイルの変化を生んだのであろうか?
…話が長くなってきたので、さっそくベスト5を紹介しよう。
※ちなみにここで言うギターソロというのは、楽曲の中のギターソロで、"Black Napkins"のようなギターインスト曲は取り上げていません。
5位 Now You See It - Now You Don't
(Tinsel Town Rebellion 1981)
[動画を貼ろうと思いましたが、この曲だけYoutubeにありませんでした…]
歌物中心のライブアルバムである「ティンゼルタウンリベリオン」の唯一収録されたギターソロである。時期的に次の作品にあたる「黙ってギター弾いてくれ」の楽曲を小出しにした形となった。これは"King Kong"におけるギターソロで、キーはE♭である(こんな風に、ギターソロの楽曲が何の曲の中のギターソロであるか推測するようになると、もう立派なフランク・ザッパバカである)。E♭のスケールのなかで展開されるザッパのギターソロというのも珍しいのでは。この時期あたりから"レゲエ版"のアレンジが施されるようになったわけであるが、このレゲエのリズムがギターソロとの良い相乗効果を生んでいる。名ドラマー、ヴィニー・カリウタ在籍時のザッパのギターソロというものは本当に素晴らしい。彼のようなザッパのプレイに良い反応ができるドラマーが居たからこそ、「黙ってギター弾いてくれ」という作品が生まれたと言っていいだろう。
4位 Rat Tomago
(Sheik Yerbouti 1979)
出だしの唸るようなフレーズが炸裂するこの名演は"The Torture Never Stops"のギターソロ(キーはAm)からの抜粋。78年ということで、テリー・ボジオやエイドリアン・ブリューが居た頃の演奏ということになる。"Black Napkns"のようなギターインスト曲ではなく、特定の楽曲のギターソロを取り上げるようになったのはこのアルバムが最初だったはず。それだけこの"Rat Tomago"におけるギタープレイにはザッパ本人も自信があったのだろう。
3位 Occam's Razor
(One Shot Deal 2008)
死後に出た蔵出し音源系アルバムからの選曲なので、ピンと来ない方が多いかもしれない。実はこのギターソロ、「ジョーのガレージ」収録の"On The Bus"という楽曲の元音源なのだ。
聴き比べるとバックの演奏がまったく異なっていることに気がつくと思う。前者の元音源は"Inca Roads"(C→Dというコード進行)のギターソロである。しかし後者の"On The Bus"では、バックの演奏がキーがAmのものに差し替えられているのだ。こうしたギターソロを元々の音源とは違う音源にペーストする手法を、ザッパは"
Xenochrony Technique"と呼んでいたようだが、この2曲はその手法が用いられた良い例だと言える。こうした経緯は抜きにしても、私はこのテイクが好きだ。ザッパは"Inca Roads"における、つまりC→Dという進行の中でのギタープレイが一番イキイキしているように私には聴こえる。
2位 Shut Up 'N Play Yer Guitar
(Shut Up 'N Play Yer Guitar 1981)
81年作「黙ってギター弾いてくれ」の表題曲。こちらも"Inca Roads"のギターソロである。このアルバムの良いところはギターのミックスだ。中央だけでなく左右全体にギター音がパンされているので、ギターソロが迫力のある形で聴こえてくる。これは"Zappa In NY"(78年)のミックスにも同じことが言える。特にライブアルバムにおいてはミックスによって作品自体の評価も変わってくるのではないだろうか(YCDTOSA Vol.2の74年ヘルシンキでのライブが、ザッパ・イン・NYのような迫力あるミックスならばなんと素晴らしいことか…)。しかしながら、こんなランキング作っといて今更言及することではないが、「黙って~」のミックスはギターがかなり強調されているので、ザッパのアクの強いギターソロが苦手な人にとって、このアルバムを聴くのは苦痛なのかもしれない。それでもザッパのギターとカリウタのドラミングのコンビネーションは一聴の価値有りです。
1位 Inca Roads
(One Size Fits All 1975)
1位は75年作ワン・サイズ・フィッツ・オール収録"Inca Roads"のギターソロ。このランキングの1~3位はすべて"Inca Roads"のギターソロである。結局は私の趣向の偏向っぷりがいかんなく発揮されたランキングになってしまった。このワウペダルを半踏みした状態で繰り広げられる宇宙的なギターソロは、ザッパによるベストプレイの一つだろう。実は、この楽曲にも前述の"Xenochrony"に似た技法が使われている。楽曲全体は"The Dub Room Special"のDVDとCDに収録されている74年のテレビライブでの演奏が使われているが、ギターソロ部はヘルシンキでのライブの演奏(You Can't Do That On Stage Anymore Vol.2収録)が挿入されている。わざわざギターソロを差し替えたということは、ザッパ自身ヘルシンキでのギターソロがお気に入りだったのだろう。差し替えるのも納得の素晴らしいギターソロである。
本当は、ニコ生のほうでも取り上げた「フランク・ザッパ難曲ベスト5」、「俺の好きなインスト曲ベスト5」についても書こうと思っていましたが、ギターソロだけでかなりの量を割いてしまったのでまたの機会に書くことにします。